格闘伝説BUDO-RA 第16号 


 
BUDO-RA 第16号
  ↑プロトタイプ版を特別に公開します。発売されるものは、これとちがうデザインになります。
第16号 2004年 4月23日発売

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カラーグラフ
ダン・イノサント直伝
初心者のためのジークンドー入門

完成から革命へ
ブルース・リーの肉体を想う

実戦格闘技団体の長に訊く! コワくて訊けなかった10の質問
富樫宜資
東孝
真樹日佐夫

特集 初心者のためのジークンドー入門

ブルース・リー秘蔵写真館
 ブルース・リーが見せるジークンドーの技1
 ブルース・リーが見せるジークンドーの技2
 映画という表現方法の選択
 家族、そして盟友たちと
 華麗なる蹴り技の饗宴
 思想としての武術
 たゆまなき鍛練

ジークンドー正統継承図
中村頼永ジークンドー&カリセミナーのお知らせ

特集2 実戦格闘技団体の長に訊く! コワくて訊けなかった10の質問
富樫宜資
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藤原敏男
東孝
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竹山晴友 不滅の魂

富樫宜資 極意論 第2回

4・7K-1 WORLDMAX リポート=山田英司

3・27K-1WORLDGP リポート=山田英司

FSAアブソリュート必勝戦略 指導=羽山威行

ドラゴンズクライ ブルース・リーに挑んだ男たち 知野二郎

鉄人倉本成春の超人追求の空手 第13回 受けの過剰反応

3・7プロ柔術
3・7ガールズショック
3・13全日本キックボクシング
3・14MA日本キックボクシング
3・21新空手道交流大会
4・4東都空手道選手権大会
4・4日本国際テコンドー協会全日本

表紙写真=ブルース・リー(C)フル・コム

 
TRY 
■完成から革命へ
 ブルース・リーの肉体を想う

本誌編集部 野沢靖尚

 「ザ・ルーシー・ショー」という、1960年代のテレビ番組を見ていたら、ゲストにジョン・ウェインが登場し、大いに驚かされた。
 当時、映画界最大のスター、まさしく「スーパースター」であったジョン・ウェインが、お笑いテレビ番組にゲスト出演してしまうこと自体はもちろん、それ以上に驚異だったのは、その肉体を披露したことである。
 映画において、ジョン・ウェインは、ほとんど裸になったことがない。その肉体を、テレビ画面には惜しみなくさらけ出したのである。1960年代のジョン・ウェインは、太っているというイメージがあったが、決してそのようなことはなく、むしろ胸の大きさ(厚さという表現を超えている)に圧倒された。
 現代とはちがって、トレーニング理論や方法が確立されていなかった当時、あれだけの肉体を築き上げていたことに、単なる巨体ということを超えて、まさに映画の巨人としてジョン・ウェインはそびえ立っていたことを初めて認識させられた。
 肉体や筋肉の大きさという点では、ジョン・ウェインの後継に当たるのがチャールトン・へストンで、その遥かなる後続としてアーノルド・シュワルツェネッガーが存在する。
 彼らとは別の系統として、単なる体の大きさではなく、筋肉にデフィニション(キレ)の要素を取り入れたのが、チャールズ・ブロンソン、ユル・ブリンナー、カーク・ダグラスといった線である。
 しかし、そのいずれもが肉体を完成させるには至らなかった。筋肉量、脂肪量など、何らかの欠点を払拭できなかったからだ。むしろ、己の肉体に対する意識が希薄であったことを、否定できまい。
 映画の肉体が完成するには、まさにブルース・リーの登場を待つしかなかった。誰 もが驚嘆したあの肉体。それは、裸になっても視線に耐えうる、という域ではない。
肉体そのものが至上の価値を有する、人類史上最高の境地というべきものだった。
 ギリシア彫刻でもなしえなかった肉体の完成を、ブルース・リーは実現した。それは、格闘技における肉体の革命でもあった。
 格闘技、という認識ではなかったろうが、日本においては、相撲こそ代表的な格闘技に他ならず、力士たちは肉体の巨大化を志向した。
 ボクシングに目を向けるなら、階級制で闘うこの競技において、軽量級の選手は、体重を落とすことを優先するため、筋肉の大きさは重視されなかった。
 脂肪を減らし、それでいて大きな筋肉を有する。現代のトレーニング理論では常識的なこの状態は、ブルース・リーの肉体があってこそ、格闘技の世界にも浸透していった。
 それまで、果たしてどれだけの格闘家、武道家たちが、肉体を作り上げることに自覚的だったろうか。むしろ、筋力トレーニングを行うとスピードが落ちる、などといわれ、筋力トレーニングが否定された時代が何年続いたことだろう。
 格闘家たるもの、武道家たるもの、己の肉体には徹底して自覚的でなければならない。どんなに優れた技法や高尚なる精神も、肉体を前提として成り立つものだ。
 現役生活を終えて、無自覚に太ってしまう格闘家は多い。試合をしないのだから、ということはともかく、それが肉体、さらには生命としての衰えに直結している明白な事実に対して、もっと真剣に向き合う必要があろう。
 ブルース・リーは、私たちに、そして全人類に向け、明確な答えを与え、目標を設定してくれた。誰もがあの肉体に驚く。憧れ、それを目指そうとする者も無数に存在する。しかし、トレーニングを積んでも、どうしてもあの肉体にはなれない。ブルース・リーを目指したほとんどの人間が、その思いを経験しているのではないか。
 だからこそ目標なのだ。簡単に実現しえない究極の目標。それをブルース・リーは、現実に示してくれた。これほど明確な目標を与えてもらった私たち現代人は、幸福この上ない。この幸福をかみしめつつ、実現の望み薄い目標に向かって日々の鍛練に取り組む。それこそが、ブルース・リーに対する恩返しになるのではないだろうか。


 
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